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東京地方裁判所 昭和45年(行ウ)116号 判決

原告 池和田治三郎

被告 青梅税務署長

訴訟代理人 伴義聖 ほか四名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

一  請求の原因一の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件各更正に原告主張の無効事由があるか否かにつき判断する。

1  本件各更正に至る調査の経緯

〈証拠省略〉によれば、本件各更正に至る調査の経緯につき次の事実が認められる。

被告係官竹内敏男外一名は、原告の昭和四〇年分及び同四一年分の所得税調査のため、昭和四二年八月頃原告方を訪れ(被告係官がその頃及び後記同年一〇月頃原告方を訪れた事実は、当事者間に争いがない。)、原告に対し右各年分の所得税の確定申告の基礎となつた帳簿書類の提示を求めたところ、原告は、これらの書類等は関与税理士である白子税理士に預けてある旨申し立て、貸付先と貸付金額が記載された金銭出納簿用紙数葉をバインダーから抜き取つて提示したのみで、その記載内容についての説明その他不動産の売買、金銭貸付けの方法等についての具体的説明は得られなかつた。そこで、同係官は数日後白子税理士方を訪れ、原告に関する帳簿書類の提示を求めたところ、同税理士は原告の申立て等に基づいて同税理士が作成した収入及び経費の計算メモのコピーを手交したのみで、原始記録等は既に原告に返還し、右計算書記載の取引の具体的内容はわからない旨申し立てた。さらに、同係官は、同年一〇月頃再び原告方を訪問し、同人の妻に対し契約書等の関係資料の提出を催告したところ、その後原告は李関係の契約書外一点を税務署に持参したが、その際本件に関連するその他の資料の提出はなく、取引等につき具体的説明も得られなかつた。そこで、同係官は、銀行調査及び取引先(金銭の借主、不動産取引関係者)等の調査に基づき原告の前記所得税に係る収入金額を認定し、本件各更正がされた。

〈証拠省略〉中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  被告の本件各更正に係る収入金額の認定

被告の本件各更正に係る収入金額の認定(李関係を除く。)につき次の事実が認められる。

(一)  沢田勝磨関係

昭和四〇年中に原告が沢田に対し青梅市今井字はけ下二四〇一の一所在の土地外三筆の土地を代金一三五〇万円で売買したこと及び右売買についての原告の申告に係る代金額が一〇〇〇万円であることは当事者間に争いがない。

そして、〈証拠省略〉によれば、被告係官竹内敏男は、右売買につき、その仲介者である村井市平に対し代金額を確認したところ、同人から一三五〇万円である旨の回答を得、同金額が、原告が沢田から受領した現金額六〇〇万円(右村井の回答によるほか沢田がその頃霞農協から借入れた金額とも合致していた。)及び原告の銀行口座への小切手による入金額の合計金額とほぼ合致し、また、沢田が霞農協から金員を借入れるに際し被担保債権額一三五〇万円の抵当権を設定している事実があつたことから、右売買に係る収入金額を一三五〇万円と認定したこと、右売買代金についての原告の申告額一〇〇〇万円を裏付ける契約書その他の資料は本件各更正がされた時点までに被告は入手していないことが認められ、〈証拠省略〉中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  青梅土地関係

〈証拠省略〉によれば、原告は昭和四〇年青梅土地に対し利率月八分の約束で金銭を貸付けていた事実が認められる。これに対し、〈証拠省略〉中には、青梅土地は昭和三九年中に倒産し、同四〇年当時は休業中であり、青梅土地に対し金銭を貸付けたのは佐久間金融であつて原告ではない旨の供述があるけれども、同供述は前掲各証拠と対比し、にわかに措信できない。しかして、〈証拠省略〉によれば、被告係官竹内敏男は、青梅土地を調査し、同社代表取締役長谷見安蔵から聴取した事実及び同人の提出した原告からの借入れに際し同社が原告に対して振出した手形の控に基づき、原告が昭和四〇年中に同社から受領した貸付金の利息(利率月八分)を三八二万五六〇〇円と認定し、同金額を収入に計上したことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

(三)  小峯荘助関係

〈証拠省略〉によれば、被告係官竹内敏男は、銀行調査及び原告から土地を買受けた尾作からの事情聴取により原告の金銭貸付先であることが判明した小峯を調査し、同人の申立て及び登記簿の調査により、昭和四一年中に原告が同人から千葉県勝浦市所在の土地一筆、西多摩郡瑞穂町殿ケ谷所在の土地三筆及び北多摩郡村山町所在の土地三筆を代物弁済として取得し、他の債権者の取り分を支払い、また原告から小峯に清算金として五〇万円を交付した結果、原告は元利合計金一三四〇万円の弁済を受けた事実を認定したこと、小峯は被告に対し元本相当部分は五〇〇万円ないし六〇〇万円である旨申述していたが、直ちにこれを採用せず、原告が通常貸付条件としていた月八分の利率(別に原告の貸付先の調査により把握していたものである。)に基づき、貸付期間一年(小峯の申立てによる。)として複利計算により右一三四〇万円のうちの利息部分を六五六万三〇〇〇円と案分算出し、これを収入金額に計上したことが認められる。右認定に反する証拠はない。

3  無効事由の存否

(一)  李関係を除くその余の収入金額の誤認について

前記1に認定の調査の経緯及び2の(二)ないし(三)に認定の事実によれば、各収入金額に係る被告の認定は、一応首肯し得る調査及び根拠に基づいてされたものと認められるから、仮に収入金額に誤認があるとしても、その瑕疵が本件各更正当時客観的に明白であつたとは到底いえないことは勿論、被告の調査により容易に判明するものであつたとの原告主張もまた失当である。

また、原告は、本件各更正は原告に弁解の機会を与えずにされた点で無効であると主張するが、更正をするには納税者の弁解を聴取することを要するとする根拠はないから、その主張自体失当であるのみならず、前記1に認定の調査の経緯に照らせば、原告において具体的資料等を開示して弁解をする機会は充分にあつたというべきである。

(二)  李関係

原告は、八王子市泉町一九〇四番地所在の土地外一筆の土地についての李との売買契約は李の詐欺によるものであり、昭和四年一一月一六日右契約を取り消したから、被告が右売買代金として収入金額に計上した一〇〇〇万円は、同年分の事業所得に係る収入金額を構成しないと主張するけれども、所得税法第五一条第二項、同法施行令第一四一条第三号の規定によれば、事業所得の金額の計算の基礎となつた事実のうちに含まれていた取り消すことのできる行為が取り消されたことにより生じた損失は、その者のその損失の生じた日の属する年分の事業所得の計算上必要経費に算入するとされているから、被告が右売買代金を原告の昭和四一年分の事業所得に係る収入金額に計上したことには何ら瑕疵がない。のみならず、右必要経費に算入するためには取消しの効果が客観的に確定することを要するものと解すべきところ、〈証拠省略〉によれば、昭和四一年一一月一六日原告から李に対し前記土地につき所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴訟(ただし、右売買契約の解除を原因とするものである。)が提起されこれに対する第一審の判決は昭和四三年二月一四日に言渡しがされており(原告から李に対し前記土地につき訴訟が提起され、判決言渡しがされたことは、当事者間に争いがない。)、同四一年中において右売買契約の効力につきなお係争中であつたことが認められるから、仮に原告主張の取消しがされたとしても、同年中にその効果が確定したといえないことは明らかであつて、取消しによる損失を同年分の必要経費に算入することも許されないといわねばならない。

(三)  してみると、本件各更正の無効をいう原告の主張はすべて失当であり、本件各更正の無効を前提として本件各決定の無効をいう原告の主張も、また、失当である。

三  以上のとおり、原告の本訴各請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条の規定をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 三好達 時岡泰 山崎敏充)

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